雲助・喬太郎 八月怪談噺の会 かもめ亭

立川こはる 「千早振る」
五街道雲助 「もう半分」
仲入り
柳家喬太郎 「猪怪談」
番外 踊り 立川こはる

こはる「千早振る」はテンポよく滑り出したのだが、途中からセリフの抜けや言い直しが目立つようになって、ちょっと上滑り気味に。最後の「踊り」がプレッシャーになって集中できなかったのか?

雲助は怖い怖い「もう半分」。居酒屋主人の造形が他の演者とはまるで異なるぶっきら棒なハードボイルド調で、いかにも一癖ありそうと感じさせる。じとじとと降る雨と相まって、居酒屋での棒手振りのじいさんと主人の会話は、緊張感を湛えて進行する。もうここらへんからかなり不穏な雰囲気だ。
十両ネコババする場面も、気の進まない亭主を肝の据わった女房が焚きつけるという展開ではなく、女房にそそのかされた亭主はすぐにその気になる。ここで亭主のセリフで、この夫婦が昔相当な悪事を働いていたことが明かされる。その後はもう、亭主は「悪」を隠さず、その魅力を全開にする。「てめえ、うちの店に綾ぁつけるつもりだな。だってそうに違ぇねえじゃねえか」とカネを取りに戻ったじいさんを反対に脅しつけ、最後には永代橋の上で切り殺してしまう。そして歌舞伎調の長台詞をキメて噺は後段に。その先は従来通りの展開だが、最後がまたすごい。油を飲む所を主人に見られた赤ん坊が振り向きざまに「キィーヒィヒィヒィッ」と奇声を発して笑う怖さと言ったら…。
普通どおりに演るとどうしても後味の悪さが残る「もう半分」だが、居酒屋夫婦を徹底して「悪」に描くとことで、因果応報の構図がはっきりして、より怪談らしく仕上がっていた。ただし、この演り方は誰にでも向いているわけではないだろう。雲助のドスの効いた声と的確な情景描写力がないと、「悪」のいやらしさが勝って、余計に後味の悪さが強調されかねない。

「猪怪談」は、2つの悲恋が交差する立体的な物語構成に感心した。でも、ライター稼業の男とその同居人女の両方の人物に感情移入できず、ああそうですかという感じ。男の方はどうにも薄っぺらだし、女の方はひたすら鬱陶しい。2人の間の恋愛は最初から一方通行であり、その破綻もアクシデントに近いため、怨念→復讐にあまり同感できなかった。

最後にこはるが「梅は咲いたか」。彼女のおはしょり姿をはじめて拝見。噺よりも緊張している様子でした。