扇辰・白酒二人会 WAZAOGIろっく・おん

お江戸日本橋亭にて
柳亭市朗  「寿限無
桃月庵白酒 「鰻の幇間
入船亭扇辰 「藁人形」
仲入り
桃月庵白酒 「代書屋」
入船亭扇辰 「麻のれん」

白酒の「鰻の幇間」は暑かった。舞台となる鰻屋の古さ、汚さ、無粋さを表現する演者は多いが、暑さを全面に押し出すという工夫は、汗かき白酒にピッタリ。小汚い二階座敷に上がった幇間は、窓がすべて閉め切られていてムッとする暑さに閉口する。ガタピシする窓を開けると、目の前は隣家の壁で風通しも何もあったものじゃない。その描写がとても効いていて、後段、幇間が不満をぶちまける際のイラつきぶりは暑さによって倍加されている印象を受ける。聞いているこっちまで蒸し暑くなってきた。

続いて扇辰は「藁人形」で、白酒が上げた湿度を一気にクールダウンさせる。小さな会場で近くから見ると、扇辰の一人芝居的なうまさがよく分かる。顔技と眼技で、嘘、疑念、驚愕、絶望といった登場人物の心理をしつこいくらい丁寧に表現する。先日の妙な明るさを湛えた好二郎版の不思議な「藁人形」も良かったが、ジクジクとした暗さをじっくり積み重ねていく正統派もいい。

「代書屋」はちょっとしたセリフに白酒の笑いのセンスが光る爆笑篇。
「麻のれん」は盲人の鬱屈を含んだ心の奥底が自然とセリフや仕草に浮かび出てくるようで秀逸なのだが、盲人をそのように描く扇辰の心の奥底や如何に?と考えてしまった。ある程度は、「景清」や「心眼」にも共通する落語における盲人の類型だとしても、扇辰「麻のれん」の盲人にはそれ以上の何かがあるように思えてならない。