扇遊・鯉昇・喜多八三人会

にぎわい座にて
三遊亭歌ぶと 「桃太郎」
入船亭扇遊  「人形買い」
瀧川鯉昇   「蒟蒻問答」
仲入り
柳家喜多八  「鰻の幇間
入船亭扇遊  「佃祭り」

にぎわい座での睦会公演。久しぶりに3列目という前の席を取れて演者の表情がよく分かる。
トップバッターの歌ぶとは、ワタクシ的2007年ベスト前座。今日の高座もきれいな口跡で、こまっしゃくれた子供と頼りない父親の造形もしっかりしている。近くで拝見して感じたのだが、歌ぶとくん結構怖い顔です。剃ったように短い坊主頭に加えて決して笑わない鋭い眼つきが印象的で、歳をとったら怪談噺が似合いそう。

鯉昇の「蒟蒻問答」と喜多八の「鰻の幇間」はいい出来だったんだけど、ともに最近聴いたばかりなので残念な気持ち半分。その分、扇遊の「佃祭り」が楽しめました。船頭・金太郎の江戸っ子っぷりが何とも言えず気持ちいい。いかにも鯔背な(というには少々薹がたっているが)風貌の扇遊が繰り出すテンポもきっぷもいい金太郎のセリフ回しには、次郎兵衛旦那じゃなくても「本物の江戸っ子だ」と言いたくなる。次郎兵衛旦那の人のよさもうまく表現していて佃島でのストーリーにはぐっと引き込まれた。
この噺、落語には珍しく、渡し船の転覆という惨事によって大勢の人が死ぬ。その事実が提示された後に笑いを持続させるのはかなり難しいはず。佃の川岸に上がった大量の溺死体なんてものを具体的にイメージしてしまった聞き手は、次郎兵衛旦那の幸運を素直に喜べなくなる。そうした客の側の空気を演者は当然察知しているはずで、遊扇が金太郎に吐かせた「こういっちゃあナンだが旦那さえ助かりゃあいいんで。誰が死のうが知ったこっちゃあ…」というセリフは、おそらくギリギリの選択だろう。どっちに転ぶか分からない危ないセリフだが、大きな笑いが起きた。僕も笑った。笑うことで客は金太郎への共感を表したわけだ。大量死という事実を前に不謹慎にも笑うヒドイ奴らということで客同士が共犯者になったとも言えるだろう。後ろめたさを薄めてその後の小間物屋でもドタバタシーンにつなげる実に効果的な一言になったわけだが、あれはかなり勇気のいるセリフだろうな。