志の輔のにぎわい

にぎわい座にて
立川志の彦 「つる」
立川志の輔 「踊るファックス」
仲入り
柳家紫文  音曲「長谷川平蔵
立川志の輔 「徂徠豆腐」

にぎわい座にせよ、安田生命ホールにせよ、志の輔の小さな箱での独演会はまともな方法では取れないものと諦めていたのだが、この日のチケットはまともな方法ですんなり入手できた。そんなわけで、おそらく2年ぶりくらいの「志の輔のにぎわい」。
大ホールでの志の輔の独演会は、爆笑編の新作としみじみとした人情噺の組み合わせがほとんどという印象を持っている。それぞれの噺のマクラも練りあげられた定番だ。初めて聴く客を十分に意識して、絶対に外さない高座は見事なものだが、それゆえに新鮮な驚きは望めない。だから、常連客の多い小さな会場での独演会に僕が期待するのは、志の輔の実験や冒険である。
期待を膨らませてにぎわい座に向かったわけだが、この日は肩透かしを食らった感じでした。
何しろマクラが長い。二席とも小三治ばりの30分に及ばんとするマクラで、内容の方もこれまた小三治を思わせるゆるさである。馴染の客相手にリラックスして語る志の輔のゆるーいマクラというのは、大箱の会場ではなかなか出会えない代物だから「今日はやっぱり変わった演目を掛けるかな」と期待したわけだが、蓋を開けたら典型的な大箱独演会の流れ。CDになっている「踊るファックス」と、パルコや談志との親子会でも掛けた勝負ネタの「徂徠豆腐」ではガチガチの勝ちパターンじゃないですか。

でもよく考えてみると、観ている方がドキドキするような冒険的な高座って、志の輔ではこれまでに一度も経験していないかも。小さな会場での独演会も、一定以上の完成度を必ず維持していたものなあ…。勝手に「黒志の輔」を期待した僕の認識不足ということですね。それにしても志の輔はどこで古典のネタ下ろしをしているんだろう?

開口一番の志の彦くんは、本日が初高座とのこと。開演直前に上がるよう言われて臨んだ初高座とは到底信じられないほど堂々とした「つる」でした。志の吉が腕を上げきたし、新しい弟子もなかなか筋が良さそうだし、志の輔一門は大きくなりそうだ。