三遊亭好二郎横浜ひとり会

にぎわい座のげシャーレ
古今亭ちよりん 「饅頭怖い」
三遊亭好二郎  「靴の箱」
三遊亭好二郎  「花見の仇討ち」
仲入り
三遊亭好二郎  「ねずみ」

なぜ、協会の違うちよりんが開口一番を務めたのか謎である。
うーん、ちよりん。女流ということを差し引いても、基本点な技術に難を感じてしまう。頑張ってほしいものだが、古典を普通に演じるという方向では、今後化ける姿を想像しにくい。思い切った工夫が必要だと思うな。

「靴の箱」はオリジナルの新作のようだ。単身赴任をしたお父さんが、初日の仕事を終えて帰宅すると、アパートの部屋には大家立会いのもと、運び込まれた引越しの荷物が山積みされている。奥さんの実家が靴屋ということで、荷物はすべて、段ボールの代わりに靴の箱に詰められて送られてきた。膨大な数の靴の箱に苦笑するお父さん。お腹が空いたので、紙袋の中に見つけたラーメンを料理して食べようとしたが、鍋と箸とドンブリがどの箱に入っているか分からない…。
その状況から展開する小技の効いた笑いは、ちょっと志の輔の新作を彷彿とさせる。靴の箱に書かれた「鍋系」の文字を頼りに、箱を開けると中には、やかんやフライパンや鍋の蓋はあるものの肝心の鍋がない。家族の住む家に電話をして、箱の中身を書き記した息子に問いただすと「そりゃあ、鍋は鍋系じゃないよ」と言う。「どういうことだ」と問う父に息子は「鍋は鍋であって鍋系じゃないだろ…。じゃあ日系は日本人か? 日本人は日本人であって日系じゃないだろ」。父「じゃあドンブリは何の箱に入っているだ」息子「ドンブリは汁系ね」父「箸は」息子「運搬系」。ここらへんの言葉遊びのセンスは志の輔の「バールのようなもの」に通じる気がする。サゲも洒落ていて良し。

「花見の仇討ち」はうまい具合に端折ってスピーディーに。噺の構成力の確かさを感じさせる。
最後は「ねずみ」。好二郎の持ち味の一つであるこまっしゃくれた子供が登場する噺だけに、これは面白くなるだろうと期待が高まる。案の定、ねずみ屋主人卯兵衛のせがれは生意気で可愛い。だが案に反してせがれの登場場面は少なかった。それに代わって、興味深かったのが卯兵衛の親友である生駒屋の使い方だ。従来の演出では、生駒屋は腰の立たなくなった卯兵衛の支援者として紹介はされるが、ストーリーの前面に立つことはなかった。だが、好二郎は卯兵衛が仙台一大きな旅籠「虎屋」の主人から仙台一小さな旅籠「ねずみ屋」の主人に落ちぶれたことの顛末を甚五郎に話す役回りを生駒屋に与えた。これは好二郎の独自の工夫だろうか。だとしたら、このセンスは大したものだ。落魄の顛末を本人にしゃべらせるよりも、こっちの方が恨みがましさがなくなってずっといい。しかも、この生駒屋を人情に厚く早合点な男に仕立て、新しい笑いに結び付けている。

のげシャーレの144席を満員にしてこれだけの笑いを取れる好二郎は間違いなく円楽党の希望である。9月の真打昇進を期に一門外の俊英たちとがっぷり組んだ二人会などが増えるんじゃないかな。期待しています。