喜多八膝栗毛 冬之巻

博品館劇場にて
柳亭こみち 「壷算」
柳家喜多八 「近日息子」
柳家喜多八 「棒鱈」
仲入り
太田その・松本優子 唄と三味線
柳家喜多八 「厩火事

大袈裟ではなく、喜多八の「近日息子」に言葉を失う。
父親と息子のやり取りの後、町内の衆が噂話を繰り広げる場面の面白さと言ったら、どうも譬えようがない。町内の衆の一人が「お前さんには前から一度言いたかったんだけど」と前置きして、知ったかぶりをする隣人への憤懣をぶちまける。この場面での語りのスピードは志らくをさえ上回るのではないか。「あの時だってそうだ」と過去の知ったかぶりを一つ糾弾したらもう止まらない。記憶が記憶を呼び、「そう言えばあの時も」と別のしったかぶりを思い出し、話しているうちに怒りが倍加していく。自分で何を言っているのかも分からなくなるほどの興奮状態。それをきちんとした芸として見せられる喜多八はやはり凄い。前回の膝栗毛でも「いかけ屋」で同様の興奮状態の男を演じて見事だったが、これだけスピードと迫力を追求しながら、仕草にいささかの破綻もないというのは驚くべきことだと思う。計算され尽くした狂気というのは喜多八の真骨頂だろう。

ジェットコースターのような「近日息子」の後は「棒鱈」。これまた大満足でした。酔っ払いの男は談春「棒鱈」よりも陽気な酔い方で、隣室の侍の素っ頓狂な唄に「虎さん何だありゃ」と言いながらも、内心面白がっている風である。田舎侍が唄う「百舌の嘴」と「十二カ月」は遠慮なしの大音量で、喜多八師匠が楽しみながら演っているのが伝わってくる。

仲入り後、いつものようにお囃子のお二人が結構な唄を披露。優子さんが髪の毛をベリーショートにしていて吃驚しました。あの破壊的な唄の後の口直しにはぴったりな諸国唄巡りを堪能。それにしても太田そのさんの唄は本当に素晴らしい。やわらかくて澄んでいて、何とも言えない心地良さである。

最後は「永遠ちはや」として「厩火事」で締める。ちょっと気が早いが本年最高の落語会でした。