ビクター落語会

紀伊国屋サザンホールにて
柳家ごん坊 「動物園」      
柳亭市馬  「一目上がり」    
柳家喜多八 「ぞめき」      
柳家権太楼 「大山詣り」     
仲入り        
古今亭志ん輔甲府い」      
柳家さん喬 「掛取り」

豪華な顔ぶれの揃った落語会。ずーっと前から楽しみにしていた日がやってきた。
それにしても柳家だらけである。この面子から誰かを抜いて別の人を入れるとして、魅力減にならないとしたら、思い浮かぶのは志の輔談春喬太郎あたり。やっぱり柳家だ。柳家以外なら鯉昇をこんな面子の中で見てみたい気がする。

志ん輔とさん喬が凄かった。
甲府い」は落語の中ではかなりユニークな演目だと思う。田舎から江戸に出てきた若者が豆腐屋で一生懸命働いて、親方の娘と結婚して店を継ぐ。ただそれだけの平凡な幸福を描いた物語。百川の百兵衛のように珍騒動を巻き起こしてくれるわけではない。甲府から出てきた善吉も、豆腐屋の親方もその女房も、娘のおはなも、登場人物はみな「底抜けにー」善人である。それでもってハッピーエンドを迎えるわけだから落語らしくないと言えばらしくない。
でもいいんだな。志ん輔の「甲府い」には静謐という言葉がぴったりくるような穏やかで清々しい空気が流れていた。豆腐の白色と重なり合うような善吉の純真さや真面目さが嫌味なくすーっと心にしみ込む。人情家の親方の描き方も押し付けがましさがなくて何ともほどがいい。優しい気持ちになれる、というか、この噺に気持ちよく酔っている自分を発見して、「僕も実は善人なのかも」と認識させられた一席。

一転、さん喬「掛取り」は極彩色。義太夫見事、歌舞伎も見事。素晴らしい熱演に「まだ終わらないで」と思わずにいられない一席でした。