『師匠噺』

師匠噺

浜美雪
河出書房新社



抜群に面白い。
落語家12人が語る師弟の物語。終章の「立川談志立川志の輔」は不覚にも涙がこぼれそうになった。
落語の師弟関係の何と濃密なことか。弟子たちが語るそれぞれの師匠は、人間性においても、芸の方向性においても、まるで異なる人たちである。弟子への接し方もやはり異なる。だが(それがおそらく落語界が脈々と受け継いできた師弟制度のエッセンスなのであろうが)、師は弟子に落語ではなく落語家としての在り様を教えるという点で完全に一致している。それは弟子から上納金を取る家元であろうが、好々爺のような柳昇であろうが変わりはない。落語家としてどう存在すべきかを教えることはテクニックを教えることの何百倍も困難な作業だろう。しかも、師の立場になった者は現役のプレヤーとして自らの芸と格闘しながら、この困難な作業に向かう。弟子たちが師を語る言葉にあふれる敬愛はもっともだろう。
談志・志の輔以外では、鶴瓶松鶴文枝とあやめ、小柳枝、柳昇と鯉昇、こん平とたい平の章が素晴らしい。
そんなことには全く触れられていないが、朝青龍問題がなぜ生じたかも分かる。親子論、教育論としても読める本。