牡丹燈籠通し公演(後編)

横浜にぎわい座にて

柳家さん弥 「もぐら泥」
柳家喬太郎 「牡丹燈籠 栗橋宿〜幸手堤」
仲入り
柳家喬太郎 「牡丹燈籠 関口屋のゆすり〜十郎ヶ峰の仇討」

喬太郎が集中力とテクニックの高さを見せつけた。
最初の聴かせどころは平左衛門の最期の場面。孝助に槍で突かれた平左衛門が痛みを堪えながら自分と孝助の因縁を語る場面、わき腹を押さえながら振り絞るようにして出す弱い声を聴いているうちにこちらまで息苦しくなってきた。刺された傷から空気が漏れているかのごとき迫真の演技。それでいてセリフははっきりと聞き取れる。これは、「擬宝珠」で病床の若旦那を演じる時にも感じたことだ。弱弱しい声なのはっきりと聞き取れる。喬太郎は声量を下げずに弱い声に聞こえるように語れるということか。
お国との仲がお峰にばれた伴蔵が、怒るお峰をとりなしていく場面も見事な説得力で、その後のお峰殺しの意外性を大いに高めている。伴蔵が何もいわずに後ろからお峰を袈裟懸けに切り殺して仲入りに。ピーンと張り詰めた緊張感から開放された客席が同時にふーっと緩んだ瞬間を目撃した。落語会ではなかなかお目にかかれない光景である。
仲入り後はかなり急ぎ足の印象を受けたが、関口屋のゆすり場面での伴蔵の啖呵は小気味よく、白翁堂の場面も客をずんずん引き込む力があった。あの複雑なストーリーをまったく飽きさせない喬太郎の力量はすごい。
ずんずんと言えば、この日は客席に堀井憲一郎の姿を見かけなかった。もちろん、いなくても構わないのだが、いつでもいる堀井氏の姿が見えないと「今日は他の場所でもっと見るべき落語会があったのか」という一抹の不安を覚える。でも、この日について言えばそれはあり得ないと思うが。