談春七夜アンコール「海」

横浜にぎわい座にて

立川談春 「桑名舟」
仲入り
立川談春 「居残り佐平次

長いマクラで世界フィギュアを観戦した話を語る。談春フィギュアスケート。あまりにかけ離れた取り合わせだが、友人に誘われはじめて見たという談春のフィギュア論はなかなか聴かせた。上位選手と下位選手の差は、談春いわく、ジャンプとジャンプの間の演技の質だそうな。上位選手はつなぎの演技で客の視線をそらさない。たとえて言う「ダレ場がうまい」という表現に納得。
浅田真央のフリーでの完璧な演技に接して、談春は思わず立ち上がって拍手をしたと言う。ジャンプの高さが他の選手とはまるで違うらしい。真央チャンはともかく、その演技に興奮する談春という図は見てみたかった。ただ、本番前の練習時に真央チャンは何度も転んでいたらしい。「パドックは酷い状態で、あれなら200〜300万は呑めると思った」と純粋なフィギュアファンが聞いたら怒り出すこと必定の発言。さらに、自らの博打経験を通じて断言する。「ああゆう後は落ちますよ。その時の力以上のものが出過ぎると必ずゆり戻しがありますから」。さて、談春の予言は当たるか。

「桑名舟」。喉の調子が悪いらしく少し辛そう。

居残り佐平次」。佐平次をどう魅力的に描くか。この噺の肝は言うまでもなくそこにある。談春の佐平次は脅しもすかしもお手のものの何とも食えない男になっていた。驚いたのは、佐平次の相手をする若い衆の造形。佐平次と同等の力を注いで、この脇役に人間味あふれる魅力を与えていた。
現実よりもかくあってほしい願望にすがる詰めの甘い人物像は、落語を聴きながら「確かにそういうところが自分の中にもある」と妙なシンパシーを感じた。と同時に、佐平次と若い衆両者の造形は、談春の中にある多面的なキャラクターに発しているのではないかとも感じた。佐平次が若い衆に時折見せる「強面」は談春の一面ではあるだろう。しかし、談春には佐平次の(計算づくの)「無神経さ」は真似できないはずだ。佐平次に反発する若い衆もまた談春自身なのではないだろうか。