談春七夜アンコール「山吹」

横浜にぎわい座

談春木乃伊取り」
仲入り
談春「らくだ」

山吹は七夜で行けなかった会。チケットをご用意いただいたMさんに感謝。ネタがかぶった2席だったが、両方とも談春で初めて聴く噺だっただけに満足でした。

「ここだけの話ですよ。他で絶対言わないでくださいね」と断りつつ、引退宣言をした円楽師匠のエピソードをマクラに振る。「春ちゃん、おれが山本五十六だったら日本は負けてなかったよ、ガハハハハ」と言い放って出て行った鮨屋での円楽。「おおケンタッキー、おれ好物なんだ」と言って添えてあるビスケットを食べてしばし沈黙の後「これは肉じゃない」と激怒した円楽。実は狂気の人である円楽を語る談春は実に楽しそうだった。若竹最後の日に楽屋で取材をした時のことを思い出した。ふがいない弟子たちへの不満と怒りを延々と3時間しゃべり続けた円楽に感じたのは確かに狂気に近いものだった。

三遊亭白鳥のようになる」と断って始まった「木乃伊取り」。飯炊きの清蔵が酒を飲む時の「くぴくぴくぴくぴ」「ぶくぶくぶくぶく」といった感じのオノマトペが「白鳥のような」なのか? それ以外は真っ当。

「らくだ」。予想通り談春の半次は凄みがある。ニヤニヤと笑いながら人を脅す本間物の怖い人というのは談春ならでは。でも、屑屋の方が印象深かった。弱気で人のいい屑屋という従来どおりの人物像を大筋では踏襲しているのだが、実は半次のことをそれほど怖がっていないような印象を受けた。

「何を怖がることがあるんだよ。死んでる人間より生きてる人間の方がよっぽど怖えや」。らくだの死骸を背負って大家を訪ねる場面、怖がる屑屋に半次が言うセリフは米朝の「らくだ」で初めて聞いてとても印象に残った言葉だったが、談春もこのセリフを入れていた。誰が最初に作ったクスグリだか知らないが、落語の中に出てくるセリフの中で一二を争う秀逸なものだと思う。

酒を飲んで両者の関係が一変してしまう場面、泣き上戸になる半次というこれまで聞いた(といってもこの噺それほど数を聞いていないのだが)「らくだ」にはない演出に最初は戸惑った。だが、関係性の逆転を極端に戯画化する演出は、聞き込んでいくうちにこれはこれで面白いと感じた。半次がらくだの(そしておそらく自分自身の)誰からも愛情を注がれなかった身の上ゆえのグレようを理解してもらおうと涙する場面は、この噺にまだまだ違う解釈を持ち込める可能性を感じさせた。

酒が入ってどんどん壊れていく(というか実は秘めたる狂気が開放されていく)様を生き生きと語った今日の談春。そうか!だから今日のマクラは円楽の狂気だったのかと納得の夜だった。