立川談春独演会

銀座ブロッサム中央会館にて


立川談春 「宮戸川
立川談春 「短命」
仲入り
立川談春 「たちきり」


談春の独演会は前座が出てこないから遅刻できない。10分前に会場に到着。
師匠の言葉通り、前座、二つ目、真打ちを一人で務める「本来の」独演会形式を守る心意気を語る。それにしても、志ん生名跡を復活させる動きがあるという話にはびっくり。
円菊、志ん駒はさすがにないだろう。馬生門下で今松、雲助、志ん朝門下で志ん橋、志ん輔あたり? 顔(というか頭)で決めるなら志ん橋だが。いずれにせよ思い浮かばない。まさか志ん五あるいは円菊門下? 志ん朝が継がなかった志ん生だけに、新・正蔵、新・小さんよりもうるさいことになるだろうな。

宮戸川」、最後の色っぽい場面は演らず、雷が鳴ったところで2人が夫婦になるとしておしまい。談春の「宮戸川」は、半ちゃんとお花よりも、霊岸島のおじさん、おばさんに引き込まれる。かろうじて生きているおばさん(婆ァ)が鬱陶しくも可愛い。

「短命」は談春で初めて聴いた。八公のハイテンションぶりがいい。小さん十八番の短命の八公と比べて、お店のお嬢さんへの傾倒ぶりが「危ない」と感じるレベルにまで高まっていて、「天災」の八公が重なった。

談春七夜」で聴けなかった「たちきり」。思いっきり泣かせようとしてましたね、談春さん。
若旦那を五十日に蔵から出すか否かというくだりで、番頭の人となりがよく表れていた。それだけに、番頭の意見によって、結果的に小糸の死に間に合わなくなってしまう結末に至って、番頭の行為をどう解釈すべきかモヤモヤしたものが残ったのも事実。上方風に、番頭を忠義に厚く正論の人ではあるが色恋には朴念仁に描けば分かりやすくなるのだろうが、談春の美意識はそれを許さないのだろうなと感じた。人も、人が織り成すドラマももっと複雑である。誰が「正しい」も「間違っている」もない。そうした談春の世界観から出てきた言葉が、芸者置屋のおかあさんの「いいことも悪いことも、忘れなければ生きていけない」なのだろう。
置屋の場面は圧巻。若旦那のセリフを最小限に抑えて、おかあさんの独白に近い長セリフでストーリーを進める。「いいことも悪いことも」数多く経験し、それを「忘れる」ことで厳しい現実に対処してきたであろうおかあさんの哀しみが伝わってきた。