市馬・談春二人会

横浜にぎわい座にて
立川こはる 「たらちね」
対談
立川談春  「五貫裁き
柳亭市馬  「佃祭り」

駄文を連ねる気持ちが失せるような見事な二人会。でも駄文を連ねます。

こはるちゃんの落語を初めて聴けた。男物の着物に短髪。かわいい男の子のようなこはるの高座はとても清々しかった。同じスタイルで“男の世界”に挑む吉坊と比べるとキャリアの差からくるつたなさはあるが、よく通る声でハキハキと明るい高座は、経験さえ積めばきっとうまくなると予感させる。「厩火事」のような女性が主人公の噺ばかり演ったり、登場人物を男から女に変えるといった女性落語家によくあるハンディ克服法に頼らずとも、本寸法で古典のできる希少な女性落語家になる可能性大。期待します。

対談は二人の前座修行やら師のエピソードやら。先日の日記に書いた『師匠噺』のライブ版という趣で落語ファンには堪らない面白さ。

五貫裁き」。「天災」にしろ「妾馬」にしろ談春八五郎にはとても引かれる。何が魅力なのか今日の「五貫裁き」ではたと気づいた。僕は談春八五郎の笑い声が好きだったんだ。大家やご隠居や紅羅坊や赤井御門守を相手に無理難題を言ったり拗ねてみせたりした後で一転高らかに笑う談春八五郎の稚気。これが何とも言えず好ましいのだ。うまく説明できないが、若干の含みを残したようなあの笑いに談春八五郎の茶目っ気や照れのようなものを感じて、「八五郎いい奴だな」と思ってしまうのだ。笑い声一つで聴く者に登場人物への愛情を喚起せしめる。いやいや大したものです。

「佃祭り」。落語を聴き始めた頃に先代金馬の録音で聴いていっぺんに好きになった噺。それでいて、どういうめぐり合わせの悪さか、これまで一度も生の高座で聴けなかった噺である。歯痛は戸隠様にうんぬんのマクラでもう大喜びモードに。
志ん朝は春、談志は冬」とは山藤章二の名言だが、その伝で言えば市馬も明らかにふんわりとした春の雰囲気を湛えた落語家である。心地良い声の響きと安定したリズムに身を任せさえすれば、摩擦係数ゼロで噺の世界に連れて行ってくれる。今日の「佃祭り」は出色の出来。佃の船頭夫妻のすっきりと片付いた所帯の様子がありありと浮かんできた。こういうのを聴かされると、噺のテーマだとか現代性だとか、そんなものはどうでもよく思えてしまう。

お互いが相手の芸を認め合う二人の落語会は極上の旨さでした。