立川談春独演会 第二回白談春

紀伊国屋サザンシアターにて
立川談春 「子ほめ」
立川談春 「おしくら」
立川談春 「文七元結

性懲りもなくまた白談春に。前回「黒」に行けなかったのでよしとしてください。
今回は前座噺、二ツ目噺、真打噺を一人で披露するという趣向。

「子ほめ」に入る前に前座噺の教育的効果をひとくさり。「寿限無」や「たらちね」で音を口になじませ、「道灌」のような噺で二人のやり取りを覚え、「饅頭怖い」のような噺で大勢の登場人物を演じ分け、「たぬき」のような噺で動きを覚える。それぞれの前座噺にはそれぞれの課題があるということを説明。次に落語の世界でよく言う「前座はウケてはいけない」の真意を語る。前座の段階ではまず噺を口になじませることが重要である。場面転換の少ない前座噺で抑揚を少なくトントントンと素早く言葉を連ねて語っていくと、必然「間」はほとんどなくなっていく。そのため客が笑ういとまもなくなるのだ。噺のテンポを身につけ行くためにはこのプロセスを経なければならない。それが「前座はウケてはいけない」ということらしい。そして間を置かない前座流の演じ方と客の反応を待つ通常の演じ方を実演する。なるほどね。「白」らしく落語基礎講座の趣。落語を聴き始めて30年近くになるが、この講座はとっても分かりやすくためになりました。オーソドックスな「子ほめ」で始動。

談春、温泉宿にてロバート・デ・ニーロに遭遇! 「ザッツ・ヒャクパーセント・オンセン」としつこく語りかけてくる談春にデ・ニーロは何を思ったか?
噺は「三人旅」から「おしくら」の場面。「おしくら」は実に久しぶりに聴いた。談春お得意の老婆が宿の女将として登場。「宮戸川」の婆さんよりもさらに歳を取って妖怪じみた老女将が秀逸。

ちょうど1週間ほど前、知人に誘われ愛宕神社の参道入り口近くにある酒屋さん「あたご小西」でワインを飲んだ。ワイン販売店でありかつテラスと店内で安くワインを飲める気の利いたお店である。ご主人に伺ったところ、江戸時代からの老舗で当時は芝口にあり、上方からの下り酒を扱い大名屋敷をお得意にしていたとのこと。「明治維新の時には大名から酒代を踏み倒されて大変だったらしいです」とご主人は言う。
江戸時代からある酒屋で小西! 何かひっかかると思ってしばし考えたら、「小西の切手」じゃないか。「文七元結」のラストシーンで鼈甲問屋近江屋の主人が長兵衛に祝いの品として持参する二升の切手の購入先が酒屋の小西である。「もしかして」とご主人に伺ったら「よくご存知ですね」。すごいな古典落語。ちゃんと実在の店をモデルにしてるんだ。でも、長兵衛の住まいは本所達磨横丁。小西のあった場所とは全然違う。まあここらへんのいい加減さもまた落語らしい。
さて、談春十八番の「文七」。長兵衛を諭す佐野槌の女将の人物造形が以前よりも深みを増している。博打の本質を説得力を持って語る佐野槌女将というのは談春「文七」の大いなる工夫であり、魅力でもあったが、その訳知りの物言いがややクドさを感じさせていたのも事実である。久しぶりに聞いた談春「文七」では、佐野槌女将のセリフがかなり整理されていた。以前はあった「お前さん、博打面白いだろ。うん分かるよ」「運否天賦です、度胸ですって言うかもしれないけど」等の、博打に狂った男を前にして言わずもがなのセリフも大幅に削られていた。饒舌さと脂っ気が少し減った分、女将の年齢が上がったように映った。一方で「お前さんみたいなのを遊び人って言うんだ」のセリフは「お前さんみたなのをお壇って言うんだ」と変わり、辛らつさは以前よりも増している。女将の言葉は少なくなっていながら迫力は増している。とてもいい。
ラストシーン、やはり小西の角樽と切手が登場。なぜかうれしかった。