立川談春独演会

にぎわい座にて

立川こはる 「千早ふる」
立川談春  「与話情浮名横櫛/木更津」
仲入り
立川談春  「文違い」

開口一番のこはるを評して談春「うまくなった」。
以前から歯切れの良さは感じさせたが、この日の高座は、一定のリズムまで身についてきたようで、とっても落語らしい感じになっていました。「20いいところがあって1つあれだと」と談春が苦言を呈した「知ったかぶり」の訛りは、リズムの副作用か? それにしても「20いいところが」と談春に言わしめたのだから、喜んでもいいと思うぞ。なんて書くと、こはる贔屓の引き倒しと言われるだろうな。

木更津の後編、いよいよ与三郎が顔を切り刻まれる場面である。談春がいかに演じるか大いに楽しみにしておりました。
まず、そこに行く前に、旅打ちから帰った赤間源左衛門にみるくいの松がお富の不貞を告げる銭湯の場面が良かった。「顔が汚れてやすぜ」と赤間の顔を拭く松のセリフや態度は、赤間を少々軽んじているように見えるとほどふてぶてしい。赤間の目を覚まさせるための心からのご注進ではなく、女房を寝取られた親分に負い目を感じさせようとしているかに映る。談春お得意の小悪党の魅力が詰まっていました。
松への肉付けは、後段の江戸金のセリフでさらに立体的になる。責め場の後で登場した江戸金は、実は松がお富に懸想していて赤間の留守中に粉をかけるが、うまくいかなかったと明かすのである。銭湯の場面で松は、お富のずる賢さを辛辣にあげつらい、それを見抜けない赤間を挑発するかのように炊きつけたが、なるほど、あれは松の私怨でもあったのか。
さて、責め場。赤間は楽しむように与三郎の顔を切っていく。ここは、そうでなくっちゃね。刀の切っ先でヒョイヒョイと無造作に切っていく情景からは、赤間の嗜虐性が十分に伝わる。ただ、この場面、赤間の嗜虐性には性的な匂いも加えてほしかった。可愛くてしかたのないお富を抱いた役者にも勝る美男子、与三郎。その美しい顔を切り刻む行為には、どうしたって倒錯した性の香りがする。若く美しい肌を持ち、おそらく体つきも中性的であろう与三郎を傷つけながら、(たぶん)いかつく脂ぎった中年男の赤間は、同じように美しいお富を傷つけているような錯覚に囚われ、興奮していくのではないか…とまあこれは完全に個人的な嗜好ですけどね。切るにしたがって目のふちが赤く染まり、口元がいやらしく緩む談春源左衛門を見たかったなあ。
一つ疑問に思ったのは、赤間が木更津を売ったことだ。いくら博徒と言ったって、ヤクザが命を張って奪い合う縄張りをそう簡単に捨てるかね? 
それと、なぜ堅物の与三郎がお富に惚れたのかを解説するクダリは蛇足でしょう。深川一の芸者とヤンキー女子高生を同列に扱っちゃあ興醒めです。