喜多八膝栗毛 春之巻

博品館劇場にて

柳家ろべえ  「たらちね」
柳家喜多八  「粗忽の釘
仲入り
太田その・松本優子 唄と三味線
柳家喜多八  「子別れ」

ろべい、良くなっている。
変に力まず落ち着いた高座。この人は上手くなりそうだと思いながら聴いていたが、いかんせん長い。開口一番は15分くらいでささっとやってくれなきゃ。

喜多八の顔技は素晴らしい。
粗忽の釘」。冒頭の風呂敷で箪笥を包むくだりで、何かに取り付かれたかのような亭主のハイテンションで早口なセリフ回しにちょっと違和感を覚えたのだが、話が進むうちにどんどん良くなって行った。釘を打ち込んでしまって隣家に謝りにいく場面は秀逸。「落ち着かせてもらいます」と言いながら煙草を飲む亭主の無表情、得体の知れない男に戸惑いながらも、それが何者なのかを探ろうとする隣人の訝しげな表情、自分の話にどんどん興が乗ってしまい女房との馴れ初めを生き生きと語りだす亭主の照れながらも嬉々とした表情・・・。二人の感情の細かい襞まで、喜多八は眼や眉や頬の動きで見事に表現していた。

独演会パンフレットに、酔った喜多八が弟子に「落語にくすぐりはいらない」と語ったことが書かれていた。その真意のほどは分からないが、なるほどこの日の「粗忽の釘」はスタンダードなくすぐりを結構省略していた。長年多くの演者が高座にかけてきた噺の場合、くすぐりはどうしても膨らむ一方になる。それだけ笑いも増えるが、話の進行を妨げるきらいもある。喜多八の「粗忽の釘」はくすぐりの枝葉を剪定しても、根幹だけでこれだけ面白くできるという良い見本だった。

「子別れ」。こちらは声の表現力に感心。特に前半。かみさんの低く淡々とした声には亭主への諦観が見事に表れていた。